WC:篠宮龍三 CWT−107m 日本記録更新@LOCALS DIVE-OFF・コメント
12月2日、LOCALS DIVE-OFFで −107m を達成、日本記録を更新した篠宮龍三のコメント。ダイブタイムは3分23秒(潜行2分11秒、浮上1分12秒)

■海が自分を迎え入れてくれた
−107mは、自分が目標としてきたジャック・マイヨールを越える記録。最高の一本だった。
今日は、結果にフォーカスしすぎないようにした。1日の予選は結果──つまり、決勝のことを予測しすぎた。予選を抜けてもいないのに。そうして目元足下、準備やプロセスがおろそかになってしまっていたと思う。そのプロセスを改めて大事にしたのが今日の結果、−107mにつながったのではないか。自分ではそう分析している。
予選は潜りはじめてすぐに耳がロックしてしまったが、今日はバッチリ。耳の鼓膜だけは破らないように気をつけている。破っていいのは記録だけだからね! 本当に気持ちよかった。集中でき、海と一体になることができた。
うまくいったときは、水に入った瞬間に海が迎え入れてくれているような感覚がある。大きく手を広げて、さあいらっしゃいと。五感で感じる情報じゃない。感覚的に。言葉ではない対話というか。そういうのが生まれる瞬間がある。
自分が無になると、じわじわじわっと海が一緒に居てくれるような感覚になる。海が近づいてきてくれるような。
自然というのは、いつもいろんなメッセージをくれているのだと思う。フリーダイビングでダイバーがこれから潜るぞというときに、いい波長があり、それがぴたっと合うと海が持ってるバイブレーションと自分がスパンと合って、いらっしゃいというようなメッセージを受け取ることができるのではないか。前からそういう感覚はあったが、今日はそれが確信できた。

■情報に振り回され自分を見失った予選
予選で−101mを申告したにもかかわらず−90mの未達で戻って来てしまった直接的な原因のひとつは、鼻水が溜まりダイブ直後に耳がロックしたこと。ではそれがなぜ起こったのかというと、フルードゴーグル(中に海水を入れて使う潜水用のゴーグル)にいつもより早い段階で海水を入れ装着していたから。今日はカウントダウン2分前に海水を入れたが、予選では10分前という早い段階から入れてしまっていた。直前のトレーニングでも−101mを余裕で達成していたが、そのときもおそらくゴーグルに水を入れたのは2分ほど前ではなかったかと思う。
海水は粘膜に対して強い刺激になる。目の中に入っただけでも鼻水が出てくるし、鼻が詰まってしまう場合もある。僕はそんなに粘膜が弱い方ではないけれど、ずっと海水につけていると当然鼻水が出てくる。それが以前からわかっていたにもかかわらず、ゴーグルを早い段階から着けたことで大量の鼻水が出た。鼻栓もしてるから、外に出せない鼻水は行き場を失って耳に行ってしまう。
なぜ昨日に限って10分前にゴーグルへ海水を入れてしまったのか。まぁ、気がせいていたのだろう。6人しか決勝に進めないのに、7人目の人間が−100mを申告していた。その人に自分のイスを取られてしまうかもしれないと。
この−100mを申告した選手がヨハン・ダルストロムというスウェーデンの選手で、自分の直前に潜ることになっていた。彼は、過去に−100mを3回トライして3回ともブラックアウト(BO)している。今回もトレーニングを見ていると−100mに到達してはおらず、−90mでいっぱいいっぱいだった。そんなふうに彼のギリギリ具合を間近で見ていたので、自分の順番の前の彼がBOしちゃったら嫌だなと。もしかしたらヨハンがBOして場がバタバタするかもしれないから、早めにゴーグルに水を入れ着けてしまおうと考えた。
BOがあるとその場に人々の神経が集中してしまう。自分の深度のロープ設置が遅れてしまったり、ヘタするとロープ設置中にカウントダウンが始まってしまったりするので、そうなるとマズイかなとマイナスの方向に焦っていた。
それというのも、BOでバタバタした経験が過去にある。だからエントリーリストを見たときに、ヨハンが直前に潜ることがわかって瞬時に過去の嫌な思い出が蘇り、「また誰かが俺の前でBOするのか」と、まだ起こりもしていないことに対して構えてしまった。
結果的に、彼は−100mを無事クリアし、ファイナルに出場できた。今回は他国のチームと練習の機会が多く持て、事前情報を仕入れることができたメリットがあったと同時に、情報に自分が振り回されてしまったと反省している。

■−107mの達成よりも価値あるものを得た
僕はファイナルには行けなかったけれど、今回の世界大会ではファイナル出場と同じか、それ以上の価値あるものを得たと思う。確実に次回へ繋がる感触や、やり方を。具体的にはコンディションの調整方法、テクニックや道具など、新たに習得した知識や経験が増えた。その感触を掴めないままメダルを獲ってしまうと、逆に苦しんでしまうことになる。
習得できたテクニックは、マウスフル。空気は、容積が一定に見えても圧力をかけることで圧縮できる。口の中がパンパンになった上で、それに向かってさらに吐く。それによって空気が、100%から120%、150%というふうに密度が上がっていく。今回の大会ではその圧縮させるテクニックを得ることができ、今日もその方法で潜ることができた。
バハマでのトレーニングでは−95mを11回潜り、その圧縮法を探したり磨いたりしていた。トレーニング最後の−101mも圧縮技術がすごくうまく仕上がり、ボトムでも全然耳が痛くない。さらに行けるかなという余裕が生まれ、−110m前後いけるという手応えすらあった。それが今大会の一番の収穫だった。−107mの日本新記録よりも、それが一番大きい。予選結果を見ると不本意な終わり方をしたことに変わりはないのだけれど、今日の−107mはギリギリいっぱいだったか、余裕を残していたかというと、もちろん後者だ。
−107mは僕のタイ記録でもある。今春のバハマ大会でここまで持って行けた。だが、そのときはなぜ自分がそこに到達できたのかがわからなかった。たまたま出でしまった記録ほど、人を苦しめるものはない。記録が出れば、そのときはもちろんうれしい。だが、スランプに陥って次が出なくなる。実際僕も、その後2週間は−100mすら越えられなかった。本番でも−105mがいっぱいいっぱいだったのだ(この記録で篠宮は前回の日本記録を達成した)。ジャック・マイヨールの最高記録が−105mなので、自分でも絶対にそこまで潜りたいと思っていた、そういう意味では目標を達成できたのだが。
当時の世界記録は−113m。本当は、−115mまで潜って世界記録を狙っていた。ところが実際は−10mも届いていない。その時点で、これはやり方を変えなければならないのだということがわかっていた。だが、どう変えていけばいいのかというのがわかっていなかった。
今回はやり方を習得している。これをベースにして、−110m、−115mが見えている。春も秋も、記録は−107mで変わりはない。でも秋はテクニックを磨いて出した−107mなので、自分にとってとても大きい。まさに、突き抜けたという手応えを感じた。

■新しいテクニックで−120m行ける
11月7日にバハマ入りしてから他国の選手と練習していた。特に、−122mの世界記録を持つハーバート・ニッチのやり方をマネさせてもらったのが大きかったと思う。彼は他の大会前も−90m前後を毎日毎日潜っており、本番でいきなり−110m、−120mと申告してくる。これはきっと何かをやっているに違いないと、かねてからずっと思っていた。しかし何を使っているんだろうというのがわからなかった。今回バハマで彼の潜るスタイルを見ていたら、すべてがつながった。それも、今朝。
まず、彼は潜り始めてからすぐ腕を体側に近づけ、身体の側面をリラックスさせて潜る。体側がストレッチされてると身体に空気がたくさんあっても口に戻すことは難しくなるが、縮んでいれば空気がたくさん出てくる。潜る際、最初から空気を圧縮しているのだ。そして彼は耳に負担をかけないよう、ゆっくりゆっくり潜行していく(ハーバート・ニッチのファイナル −114mダイブタイムは3分43秒)。
また、彼はウォーミングアップ時、フロートをまたいで直立に浮いている。あれも理由がある。仰向けの状態では息を吸ったときに波がかぶると水を飲んでしまい、失敗することがある。それを防ぐためというのがひとつ。もうひとつは、胸郭をなるべく水面に上げ水圧を少なくして空気を肺にたくさんいれるためだ。さらに彼が使っているフルードゴーグルを見ると、水を溜める方式にはなっていない。サングラスのようなものにレンズを埋め込んであって、海水は顔の方へ突き抜けるようになっている。それでもレンズがあればモノは見えるので、ゴーグルの用途としては確かにまるで問題ない。

カップのあるゴーグルに海水を入れて装着すると、圧力が加わって目から鼻の中に入ってきてしまう。それがぐしゅぐしゅになり、耳が抜けない原因になり得る。彼は最初からもう直立の姿勢で、ゴーグルの中には水をいれていない。常にドライを保ってる。かねてよりなぜあんなに風変わりなゴーグルを使っているのだろうと不思議に思っていたが…。やられましたよ。我ながら、いま気付くなんて遅ぇ! と思いながら、潜る直前になってすべてが僕の頭の中でつながった。
ハーバートのスタイルを今後はすべてマネさせてもらいつつ、僕は、−120m行く。彼にも負けないであろうテクニックを思いついたので大丈夫。それはいまの時点では誰にもナイショだけれど、来年の春以降に試してみる。いまのテクニックでも−110mは行けるだろうが、新しいテクニックを使えば−120mを越えられるはず。あとは、マネさせてもらうハーバートの個性的過ぎるあのスタイルでいかに美しく潜るかというのを、僕は追求していこうかと(笑)。例えば手を体側に近づけるにしても、もっと上半身を使ってスムーズに泳ぐ練習をするとか。やはり、美しさは人々の記憶に残る大切な要素だと思うから。
