VB2010:day6:2つのナショナルレコード

ナショナルレコードが、ふたたび更新された。篠宮龍三がフリーイマージョンで−102m、平井美鈴がコンスタントウィズフィンで−74mを達成。ふたりともこの記録会でナショナルレコードを2回ずつ更新している。
天候は晴れ。陽が当たり、そよ風は心地よい。競技中は時折薄雲が空を覆い、水温は25、6度だろうか、昨日よりも若干低く感じた。透明度はday5とほぼ同じで、コンディションはよい。

篠宮にとって、今回の記録はなんと30個目の記念すべきナショナルレコード。同じ深度でも昨日のトライとは異なり、ボトムに到着してもまだ耳抜きに余裕があり、−110m+αへの手応えを感じたダイブだった。
「連続で潜る3日目で、集中力は高まってきた。耳も、1日目よりは3、4日目のほうがこなれてきてちょうどいい」

ダイブタイムは4分17秒。day5の4分1秒よりも16秒伸びていた。聞けば、腕が疲れて休み休み進んでいったという。フリーフォールに入る直前に思い切りロープを引っ張り漕いだものの、思ったよりも進まなかった。フリーフォール中も数回ロープを引っ張りながら潜行した。
■Ryuzo Shinomiya FreeDiving Japanese National Record, Free Immersion 102m(movie)
篠宮はダイブが終了すると、すぐに平井のサポートに入った。
「ウォーミングアップ中、いい感じで深い集中に入っていた。端から見ていてもこれはいけると思った」
篠宮が言うとおり、平井の集中度合いは日に日に深さを増している。自分の内面に集中し、深く“入る”感覚が心地よい。その感覚を得るために、就寝前、起床後、ウォーミングアップ前後に瞑想を行っている。今日はウォーミングアップ中もその後移動しても、集中がまったく途切れなかった。ダイブタイムは2分28秒。

「−74mが達成できてうれしい。帰りはいつも通り、すっごく気持ちよく上がってきた。でも相変わらずボトムで耳抜きの空気が終わってしまっている。もっとゆっくり行けばいいのかなって考えながら帰ってきました」
耳の空気がなくなったのは、昨日のダイブと同じ。昨日はそのことに驚いてしまったが、今日は冷静に見つめられた。完全に脱力したフリーフォールの距離は、昨日よりも長かったという意識もある。もうすこしリラックスできるのではないかとも思う。連日のダイブで、身体も心も海に慣れることができた。息はもつ。疲労もまったく残っていない。
■Misuzu Hirai, Constant Weight with Fins 74m, Freediving Japanese National Record(movie)
篠宮のフリーイマージョンは、潜行スピードを上げることが大きな課題だ。day7は−104mを申告。デイオフの次の日は、もう一度潜る感触を確かめて課題をクリアにする。
現在、男子フリーイマージョンの世界記録は、この記録会の主催者でもあるウィリアム・トゥルブリッジがday5に達成した−117m。day6ではハーバート・ニッチが−118mに挑戦したが、SP(サーフェイス・プロトコル。15秒以内にマスクを取って意識がしっかりしていることをOKサインとしてジャッジに伝え、30秒間は顔全体を水面上に出す必要がある)で失格。水中で落としたタグを探そうと顔を海中につけてしまった。
ニッチは−118mの地点に到着したタイムが2分17秒。ウェイトを2kg、1mmのウェットスーツを身に付けている。対して篠宮は、−100m地点で2分13秒。ウェットスーツは3mm、ウェイトはなし。ニッチのようにウェットスーツの浮力を極力なくしてウェイトをつければ確かに潜行速度は早まるが、上昇時により筋力が必要になる。
どちらをとるかはバランスの問題としながらも、篠宮はday7でウェイトを追加する考えはない。フリーフォール中に両腕を身体の前面で腰に巻いたゴム管へしまう、その体制そのものが潜行スピードの妨げになるのではないかと篠宮は考えている。潜行中、胸の前に水が溜まりやすくなり、抵抗が生まれてしまうようだ。
「とにかくタイムを短くしたい。せっかく改良した腰のゴム管だけど、次は腕を脇に沿わせたまま潜ってみようと思う」

平井がより深く潜るための課題はたったひとつ。「耳抜きする空気をあと1回分残すこと」。そのためにいかに深く集中し、フリーフォールで完全に脱力してゆっくり進んでいくか。平井のday7も、ここ数日挑戦してきたことに再度取り組む日として位置づけられた。
「day7ではもう一度同じような深度──−75mを潜って、残りの2日は−80mを照準にするかどうか考えます」

フリーダイビングという競技には、トップクラスで争う選手がより深く潜るための明確なメソッドが存在しない。ダイブ方法も、道具も、集中法も、実践で試すことではじめて自分に合うか否かが明確になる。強い選手のやり方を模倣したからといって、自分に合うとは限らない。ひとりでトライ&エラーを繰り返しながら、潜った軌跡を淡々と記録していくものだ。それは、篠宮も平井も、もちろんワールドレコードを争う選手たちにも例外はない。
day6、記録会直前に、平井は記録会のオフィシャルフォトグラファー、ディ・ディ・フローレスから声をかけられた。
「あと1年もすれば、あなたは−100mに到達するわ。潜る姿を見ていて、いつも感じるの。あなたは潜るためのスキルも、耳抜きのテクニックも、精神的な強さもある。あとは『自分にはできる、絶対にやってやる』という強いイメージだけよ」

■写真撮影:永嶋奏子(ながしま かなこ)
■ムービー撮影/編集:二木あい(ふたき あい)